③ 歳出バランスの課題
ここでは越市長の予算の使い方を見たいと思います。
歳出を性質別に見ると、特に扶助費、維持補修費、投資的経費のバランスが取れていません。高齢化と低成長のトレンドの中、一旦制度化した扶助費を縮小、廃止することは中々できませんが、常に事業の検証と見直しを行い不要不急の事業は廃止するなどして扶助費の伸び率を抑制することが重要です。
こうした中、越市長はマニフェストに掲げた保育所の待機児童解消については並々ならぬ執念で民間保育所誘致を推進し、今年4月時点で待機児童ゼロを宣言されました。まずは目出たしですが、施設建設時の補助金に加え、後年度負担として扶助費である民間保育所運営費が大きくふくらんでいく(少子化トレンドの中で)ことを勘定に入れなければなりません。一方で作ったばかりの保育所が早くも定員割れを起こしている様子を見ると、やはり急激に作りすぎであると言わざるを得ません。とにかく一時的にでも待機児童ゼロを達成しようと保育所予算(扶助費)にお金をつぎ込んだ感があります。マニフェスト実現のための無理な出費は一体どこまで許されるのでしょうか?
(⇒関係資料3のうち「性質別当初予算額の推移」参照)
<保育所増設の状況>
平成24年度~27年6月までの定員増は1,762人(5,358人から7,120人へ1.3倍増)
新設保育所は21園、増改築は6園
<定員割れの状況>
公立保育所:4園 69人、民間保育所:9園 356人、認定こども園:3園 151人
以上合計:16園 576人の定員割れ (平成27年6月時点)
定員割れの中には既設保育所も一部含まれるため単純比較はできませんが、定員を1,762人増やす一方で、その3割を超す576人の空きが生じています。中には定員の8割が空いている新設園もあり、保育の質と経営の安定性の確保が懸念されます(本年6月時点)。
保育所の整備は、地域的な偏りも含め親の保育ニーズとの不一致の問題に目を向けないと大きな無駄遣いになりかねません。なお、待機児童ゼロ宣言が行われた時も、「うちの子は入れない」という声が聞かれました。大津市の待機児童は厚生労働省の認めたカウント方式によっており、親が特定の保育所を希望していて他園のあっせんを断る、求職活動を休止している、産休・育休あけの利用予約といった場合は、待機児童として見なさないでよいことになっています。ボーダーラインをどちらにカウントするかにより数字が大きく変わる可能性がありますが、この算定方式と新規開園ラッシュにより平成27年3月末に百数十人あったと聞く待機児童が発表時点で一気にゼロになりました。現在は何人となっているでしょうか?
一方で、同じ扶助費の中では、特別養護老人ホームの待機者(申込件数でなく実人数)が1,000人を超える状況が固定化しています。大津市は、介護保険と医療をうまく組み合わせ、行政も地域も協力して可能な限り高齢市民の在宅生活を支援しようという考え方(地域包括プラン)に立っており、これは妥当であると思います。しかし「在宅重視」といっても、最小限度の入居施設(我が家の代わりとなる施設。特別養護老人ホーム、養護老人ホームなど)は必要です。子どもの待機ゼロは結構なことですが、高齢者の待機はどうなるのでしょう。1,000人以上を一気にゼロにはできないでしょうし、在宅支援にもっと努力することも大事ですが、子どもも高齢者も同じ扶助費の枠の中です。少しくらい工夫の余地はないのでしょうか。
扶助費がふくらんでいる反面、維持補修費が予算総額の約1%にしか過ぎないというのも問題です。
公共施設の新設や増設は難しい時代であり、だからこそ、市民にとって必要不可欠な公共施設は可能な限り長く大事に使えるよう延命対策を十分に講じておくことが重要です。ところが越市長の指示は端的にいうと「壊れるまで待て」であり、特に斎場、ごみ焼却場、市民ホールなどの担当者は日々、胃に穴の開く思いをしています。計画的な維持をする気がなければ、いっそのこと維持補修費の小出しを止め、施設の早期建て替えに方向転換する方が費用対効果の面から有利な場合もあります。
また、投資的経費が予算総額の1割にも満たないという問題もあります。
インフラ整備の中でも道路整備は、特にまちづくりの観点から重要であり、南北に細長い大津市において、幹線道路整備はもちろん、狭隘な生活道路の側溝整備に至るまで学区要望の大半は道路整備に対する要望で占められているのが現状です。繰り返しますが、道路整備はまちづくりの原点と言っても過言ではありません。子育て支援は重要ですが、やみくもな保育所新規開園ばかりが能ではありません。
限られた財源の中で少しでも扶助費の伸びを抑制し、その分を少しでも道路維持費や道路整備費に振り向けるべきであると考えます。
将来世代へのツケを残さないと語る越市長ですが、公共財である施設や道路も残さないお考えなのでしょうか。
(⇒関係資料3のうち「道路関係費の推移」参照)