昨日は越市長が進める「市民センターの統廃合」をテーマとしましたが、これに対し「越市長の理念なき行革は失政である」であるとのコメントをいただきました。私も同感です。
また、「越市長が進めてこられた行革がらみの各種検討がこのところストップしている。選挙後が心配である」という趣旨の職員の方のコメントがありました。この話は各方面から聞くので間違いないと思います。これらこそ、いま、市民に対してしっかり説明すべき事項だと考えます。
昨日の記事にも書きましたが越市長は市民への説明責任を果たされるべきでしょうし、そのことを議会も市民もしっかりと問うていくことが重要だと思うものです。
さて今回は「乳幼児健診の委託」を取り上げます。
大津市は、かつて複数の専門職(医師、歯科医師、保健師、発達相談員、歯科衛生士、栄養士など)による連携対応システムを構築し、健康カード(乳幼児期の個人カルテ)やボイタ診断法を導入して障害をもつ乳幼児の早期発見・早期対応その他に大きな成果を上げました。
これは「乳幼児健診大津方式」と呼ばれて全国的に注目され、安心して子どもを産み育てられるまちとして広く知られるところとなり、わざわざ大津に引っ越す人々も現れました。
当時、私は福祉の分野にいましたが、この健診があるから大津に転入したという家族を何例も知っています。
それから年月が経ち大津方式はとうに全国標準になっていますが、伝統というのは不思議かつまことに有り難いもので、本家である大津市においては依然として直営により高いレベルの乳幼児健診が継続されてきました。三師会との連携も良好であり、保健所の職員の問題意識も高いと私は思います。
こうした風土が母子保健、さらには市民の健康づくりの地域拠点である「すこやか相談所」を生み出したことは間違いありません(市内7か所)。
そして介護保険法がスタートしてからは、ここに「あんしん長寿相談所」(法の位置づけは地域包括支援センター)が併設され、赤ちゃんからシニアまで(正確には出生前から看取りまで)を地域で支えるための行政サービスの仕組みが整いました。これは大津の財産だと思います。
(「整った」と言っても完成品ではありません。地域や関係機関との連携・協力により市民のニーズにきめ細かく応えていくことが重要だと考えます。)
(私の在任中の見聞の限りでは、越市長は「すこやか」、「あんしん」の二つの相談所の判別が出来ておられませんでした。さすがに今は理解されたと思いますが)
前置きが長くなりましたが本題の「乳幼児健診の委託」です。
越市長はこのことについて対外的には何も語っておられませんが、今後「理念なき行革」のメニューに上がるのは間違いないと思います。そして私は専門職を何人削ったと胸をはられるかも知れません(ああ勿体ない!) こうしたことを想定して委託の適否を考えたいと思います。
乳児は1歳未満、幼児は1歳以上6歳未満、小学校に入るまでが乳幼児ですが、大津市ではこの間に4か月児、10か月児、1歳9か月児、2歳6か月児、3歳6か月児の5回の健診と「赤ちゃん相談会」を実施しています。
このうち出産後まもない4か月児健診だけは登録医療機関に委託していますが、それ以外は大津方式のスタイルに基づく多職種対応の集団検診を直営で行っています。
乳幼児健診の委託とは、この直営部分を個別に病院や医院に委託することになります。
つまり、直営か委託かという選択は、「多職種連携による集団健診」と「医師による個別健診」のどちらにするかという選択です。
そして乳幼児健診の重点は、医療技術の進歩や社会環境の変化により「障害をもつ乳幼児の早期発見・対応」に加えて「育児が困難な親子の支援、虐待防止、発達障害への対応」などが加わりました。
また近年の傾向として、高年齢出産、不妊治療などに伴う多胎児出産、支援者のいないシングルマザーや外国人の出産、DV、貧困などが増えており、健診を契機として複雑、深刻な課題が芋づる式に現れ、各行政機関や地域の連携がなければ太刀打ちできない事例が増えてきました。
医師は高度専門職の代表格ですが万能ではありません。医師単独と、医師を含む多職種連携のいずれが今のニーズに適合した体制といえるでしょうか。
集団検診は、「親の学校」でもあります。他の親と交流したりよその子どもと触れ合う中でわが子の発達課題に気づいたり、自分の育児の悩みを相対化してみる契機ともなります。孤立のなかで子育てに悩む親にとって心強い出会いの場になる可能性もはらんでいます。こうしたメリットは日時や会場が決まっているとか待ち時間があるというデメリットをおぎなって余りあると思います。
もし今後、越市長が乳幼児健診の委託方針を表明された場合、その目的は何なのか?いまの
直営・多職種連携・集団による乳幼児健診のどこを問題視されているのか?しっかりお尋ねする必要があります。
合併を機に乳幼児健診を全面委託したさいたま市では、平成24年度の乳幼児健診において「発達の問題に気づかれた子ども」の人数がわずか0.68%(受診者40,201人に対して275人)。これと別に育児相談など他の手段を加えた数値でも2.04%と報告されています。
一方、学齢期に達した時の「行動面で著しい困難を示す」とされた児童の割合4.7%とされており、この差である2.66%の子どもたちが乳幼児期に早期発見・早期支援の手を差し伸べられず学齢期を迎えたと指摘されています。
さいたま市に関する報告書では、発見もれの背景として、多職種連携による集団健診の利点が委託により失われたことへの課題認識が慎重な言い回しで指摘されています。
大津方式の本家だからそれを守るべきだと単純に主張するものではありません。
しかし、市の様々な取組みやシステム、体制にはそれなりの理由があります。過去の全否定からスタートするアメリカのビジネス流儀を以前に紹介しましたが、大津市政でそれをやられてはたまりません。不利益をこうむるのは市民です。
今回も越市長にお尋ねしますが、今後、乳幼児健診の委託を検討されるおつもりでしょうか。その際の理念は一体何でしょうか。
もし検討されるなら、今の市民のニーズをしっかり見極め、現場の意見に耳を傾けて、集団の英知を集めてそれを行うことが市長の責務であると思います。
先日、新聞で知りましたが、大津の乳幼児健診を考えるシンポジウムが明日開かれるようです。
これから子どもを生み育てようとする方、お孫さんのいらっしゃる方、保健衛生のお仕事をなさっている方などもお越しになってはいかがでしょうか。越市長も何かとお忙しいでしょうがぜひお運びくださると大いに勉強になると思います。
シンポジウム 大津市の乳幼児健診:歴史に学び未来を語る
~ 子どもと子育てを支える大津市を願って ~
<日 時> 12 月 26 日(土) 14 時~16 時
<場 所> 明日都浜大津 中会議室