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2025/05/19

274)米騒動

 トランプ騒動ではなく主食である米の騒動について書きます。これまた「食えない」話です。スーパーから米が消えたと報じられたのは二月ごろでしたか。でも私が住んでいるのは米どころ近江、全国屈指の水田率を誇る滋賀県です。ここはまだ大丈夫だろうとたかをくくって失敗しました。気がつくとハズイ西店(湖南地域の台所)にもアルプラザ(平和堂基幹店)にもお米がないのです。

 ものがなくなって買いに走る「後手後手ショッピング」を反省しつつしばらくお餅とパスタでつなぎましたがやはりご飯がほしい。農協直営の「青花館」に行っても無駄足でした。朝から並んではりまっせとお店の人に教えられ、翌朝、私もその行列に加わりました( まるで配給米!)。常連らしき人同士が「わしら銭(ぜん)ないぶんヒマあるしな」と話しています。たしかに私をふくめ勤め人らしき人の姿はありません。私は列をなして待つことが人一倍嫌いですが背に腹はかえられません。

 「米」と大書したプラカードをもった人が行き来して人数を数えていますが、「何人いける?」、「ひとりなんぼ?」、「何時あくの?」など質問が飛ぶうえ人が次々に来るので収拾がつきません。係の人は何度も数え直したうえで最後尾の人に「お客さん45番。おぼえてね」と下駄をあずけました。なるほどみんなが証人だし、次は46番から数えれば足ります(われらは競争原理のはたらく運命共同体)。同様に何人かが番号をもらい70人で関門閉鎖となりました。

 私は首尾よくお米をゲット、5キロの玄米を精白して4.3キロに減ったミルキークイーンが4,400円でした(ほかの銘柄は売り切れ)。そうだ息子一家に送ってやろうとこの日をふくめ4回の早朝出勤をしました。ヒマならあるし。しばらくたって5月なかばのお昼前、「青花館」に野菜を買いに行ったらまだお米が残っていました。値段は高いままですが極端な品薄は収まりつつあるようです。

 この米騒動で政府の危機管理の甘さ(短期課題)と食糧安保の危うさ(政策課題)が浮きぼりになりました。副食の豊かさが「米離れ」の要因とすれば米の消費量が減ったことを嘆かなくてもよいけれど、小さな川が簡単に溢れたり干上がったりするように流通量の減少は不安定さを伴います。だから備蓄米があるのにどうしてうまく使えないのか?

 私は経済にとんと弱いのですが、農水省にとって備蓄米は自在に使える「武器」だし、米の流通になお中心的な役割をはたしている農協は「仲間内」でしょう。日銀が通貨を操作するよりずっと簡単かつダイレクトに市場に働きかけられるはずです。それなのに何十万トンもの米を複数回放出しても一向にスーパーまで届かず、値段もつり上がったままではありませんか。

 なんと農水省は、一年後に同等同量の米を卸業者から買い戻す条件をつけていたそうです。つまり今年の秋にできる米はあらかじめ何十万トンだか(数字を忘れました)が国庫に入って品薄になると決まっているわけだから、卸業者はいま保有している貴重な米を市場に出す気になれません。一年で安易に帳尻を合わせようとした農水省の役人は、国民の食卓より自分の仕事のラクさを重視したわけです。

 すったもんだの末に「一年しばり」は五年に延長されましたが米騒動はまだ終息していません。農水省および政府は、この米不足の発生のメカニズムを分析、公表し、あわせてその対策(危機管理)の検証も行うべきであると思います。今回は小さな危機です。こんなざまではトラフ地震を乗りこえられません。大きな危機に対して国民的な備えは必須ですが、政府にはもっとピリッとして欲しいのです。「やってるふり」でなく「やって」もらいたい。

 もう一つは食料安保(農業政策)の問題であり、米騒動は日本の食糧事情の縮図だといえます。よく知られるようにわが国の食糧自給率はカロリーベースで37%です。米は、ミニマムアクセスやTPPによる輸入があるにしてもまだ国産が主力ですが、小麦、とうもろこしなど他の「腹の足しになるもの」はすべて輸入に頼っています。

 生産額ベースの自給率は60%をこえるし野菜にかぎってみれば80%になりますが、なにかの事情で海外調達ができなくなった時にイチゴやレタスばかりで飢えをしのぐわけにいきません。地球規模では明らかに食糧不足だし(飢餓人口は8億とか)、国際緊張がさらに高まればどの国も自国を優先しますから、車を売って食料を買うスタイルはもう危険です。

 自給率の高い野菜といっても種(タネ)は90%が輸入です(種苗会社が海外へ生産委託している)から、正味の自給率は80% × 10% = 8% となります。いまの野菜は交配による一代かぎりの品種(F1)であるため毎年タネを買う「自転車操業」にならざるをえません。化学肥料(リン、カリウム、尿素)もほとんど輸入です。卵は純国産ですがヒナ鳥は大半が輸入、エサのとうもろこしも100%が輸入です。危なっかしい状況だと言わざるをえません。

 幸いここ80年は国民規模での飢えはありませんでしたが、いまや抜本的な路線転換が必要です。アメリカとの関係を例にとっても、野菜の種子は同国のモンサント社(枯葉剤も製造。いまは社名変更)に牛耳られ、穀類も米国依存、ICTの根幹部分も米国大手企業の独占ですから、わが国の胃袋も頭脳もアメリカの支配下にあるようなものです。対米貿易は黒字だと安心していられません。

 井上ひさし(なつかしい名前!)が農業、農村、農家の意義をくりかえし語っていたことを思い出します。社会インフラのなかに不要なものはありませんが、たとえば道路敷、鉄道敷、工場の敷地など比較すると農地は「それ自体」がきわめて大きな価値を有しています。すなわち農地は米や野菜を生み出すばかりでなく、環境保全、生態系維持、景観形成、防災などの重要な役割を果たしています。

 だから本当はすべての土地を公有にすべきでしょうがそうもいかないから、山や川を保全するように国全体で農地を守る必要があります。政府はこれまでの減反、転作奨励、所得補償などの効果を検証し、農地保全と自給率向上をめざす農政の基本方針を明確にするべきだし、細かい点では農家はもっと農薬の使用を控え、消費者は作物の「見てくれ」に惑わされない眼をもつべきだと思います。

 おりから昨日(5月18日)、江藤拓農水相が「私は一度も米を買ったことがない。支援者が持ってきてくれる。わが家には売るほど米がある」と自慢しました。それを知って私の頭に「極刑ニ処ス」という言葉が浮かびました。これまでに書いた通り私は死刑廃止論者ですが脳内の反射は制御できません。こんな大臣がいることを一市民として情けなく思います。首相が厳重注意したそうですが、「もっと空気を読めよ」とでも言ったのでしょうか?

 今回もまた更新に手間どってしまいました。足の痛みで受診したことがきっかけで首(椎骨動脈)の検査まで受けることとなり、結果的に各所が老化している(脳も萎縮)ということが分かって、これに時間をとられてしまいました。ちょっとおもしろい経緯ですがあまりに私事なのでやめておきます。しかし私のどんなアホらしい話でも江藤拓よりマシでしょう。




 

 

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