猫の目のような政局です。国民民主の玉木氏がもったいぶっているうちに維新に先を越されました。「企業団体献金廃止」の表看板を一夜にして「議員定数削減」に書き変えた維新も猫の目です。自民・維新タッグに参政・N国も加わるとか、世も末じゃあ。これまでの野党結集の動きを「野合」や「数あわせ」と非難して来た自民党が今それを励行中です。ここ10年ほどの各党党首の約束や言明を一覧表にしてくる人はいないでしょうか。SNSより投票の参考になるはずです。
今回は前の記事(シゲルとサナエ)のサイドメニューである立憲・本庄氏の「麻生家に嫁入りした高市さん」発言をとりあげます。「この発言は女性蔑視だと批判を受けているがレトリックとして上出来だ」とO君は言いました。麻生派の力で自民党(伝統的な家族形態を重んじる党)の総裁となった「男まさり」の高市氏が、いまや麻生家の「嫁」のように窮屈な立場に追い込まれているという本庄氏の比喩をO君は面白がっています。
これは高市氏の自業自得であり、私はO君の意見に半分同感ですが、「嫁発言」はよしとしません。大人になってから私は、自分の意見を表明する際に「嫁」という言葉を使っていません。なぜなら、社会の中で長きにわたって足を踏まれ続けてきた女性の立場を象徴する言葉の一つが「嫁」であること、そして今もその残滓が濃いことを私は認識しており、「嫁」という言葉を今あらためて自分が使うことによって反射的に旧弊をかつぐ側に回ることになると思うからです。
たとえばある社会構造的な状況(しかも理不尽で極端な状況)があるとします。すなわちシンボリックな状況です。それをさして「これは基地に苦しむ沖縄みたいな状況だね」と言うことは妥当ではないでしょう。「嫁発言」はこれに似ています。しかし一方で私は、ニコニコしながら「嫁」とか「嫁さん」という言う若い人々に対し注意も反対もしません。私には他人を「教育」する考えも資格もありません。
「言葉狩り」には賛同しません。人の「嫁発言」を厳しく咎める人は、「嫁」という黒歴史を背負っている言葉が世間一般に通用しているかぎりその実体も生きのびる。したがって「嫁」と言ってはならないと考えています。一種の言霊論です。私は優柔不断ながらこの考えにも半分賛成、半分反対です。もしこの立場にたつならば「鬼嫁」は絶対アウトだし「花嫁」も不適切表現でしょう。
しかしジューンブライドはどう訳せばよいでしょう。「6月に結婚するカップルのうち女性の方をいう」と言うのでしょうか(女性どうしの結婚の場合はさらにややこしい)。また、昔なつかしい「はしだのりひことクライマックス」の「花嫁」(花嫁は夜汽車に乗って嫁いでいくの~)や小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」は放送禁止でしょうか?(これらの歌詞が低俗であることを別として。)
戦争は絶対悪だからこの言葉を社会から抹殺しよう。もし戦争という言葉をつかう必要が生じた場合は「せ」と言うことにしよう、という風刺小説を読んだ記憶があります。筒井康隆だったと思うけれどいま調べてもわかりません。この例にならうと「奴隷」という言葉も絶対悪です。「恋の奴隷」だったら許されるでしょうか。
また昔は身体的・精神的な不全をさす直截な言葉が平気で使われていました。活字として広く流通した例に記憶の範囲で内田百閒の随筆があります。この作家は、友人である宮城道雄(少年期に失明した琴の名演奏家)に対し、今なら「目の不自由な人」に相当する言葉をストレートにぶつけ、二人の会話がそのまま楽しく続いていく場面がありました。二人が親しかったという理由だけでなくそれが社会の風潮でもありました。
もう一つ安倍公房の小説(題名は記憶せず)も思い出します。この小説の中で朝鮮半島出身者をさす言葉の前に「不逞」の文字をつけた4文字熟語が何度か出てきました。この言葉もまた当時は広く使われ、関東大震災の際も井戸に毒を投げ込んだ容疑者は彼らだとして警察の記録にも載せられています。
いまは総じて表現がマイルドになっていることは社会の進歩でしょうが、一方でオブラートに包まれた中身(無理解、偏見、蔑視など)が根強く残っている例は少なくありません。人が言う「嫁」という言葉をスルーすると先ほど言った私ですが、いま挙げたようなきつい言葉を友人知人が使った場合はさすがに注意すると思います。
また私は、「盲目」は実体を示す言葉として理解するけれど、それを形容詞的に使う「盲目的」、「盲従」、「盲信」などの言葉を近ごろは使いません。目の見えない人に対してあまりに失礼だと思うのです。不適切だと感じる言葉は人によりマチマチです。それに言葉は文脈に応じて意味も変わります。ゆえに私は「不適切用語」について一つの尺度をもつことができません。正解はなく複数の「解」あるのだと思っています。以上が前回記事の積み残しです。
次回を書くまでには首相が決まっているでしょう。ほんとうに政治の節目だと思います。

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