2021/10/03

158)「学ぶ力」によって

 あらためて新科目「公共」の成立過程を振り返ります。前回お伝えしたとおり2006年の教育基本法「改正」で、「公共」、「道徳」、「家庭」、「愛国」といったキーワードが表に出てきました。ついで2010年の参院選において自民党は、「道徳教育や市民教育、消費者教育等の推進を図るため新科目『公共』を設置する」という公約を掲げました。2012年の衆院選でも、「規範意識や社会のルール、マナーなどを学ぶ道徳教育や消費者教育等の推進を図るため、高校において新科目『公共』」を設置する」ことを公約しました。

 さらに2013年、自民党文部科学部会の「高校新科目『公共』に関するプロジェクトチーム」が、新科目「公共」の設置を文科大臣(下村博文氏)に提出。こうした流れを受け2015年に中央教育審議会が「論点整理」を行い、ついに「公共」が高校公民科の共通必修科目として設置する方針が明確化されました。それは「主体的な社会参画に必要な力を、人間としての在り方、生き方の考察と関わらせながら実践的に育む科目」とされ、「社会的・職業的な自立に必要な力をはぐくむキャリア教育の中核となる時間として位置づけることを検討する」とされました。

 これを受けて中教審教育課程部会の「社会・地理歴史・公民ワーキンググループ」が具体的検討に着手、その検討結果が2016年の中教審答申に取りまとめられ、高校現場のカリキュラムや授業内容を規定する学習指導要領が作られることとなりました。この経過から明らかなように、新科目「公共」は政治家の敷いた路線にそって設置され形作られてきたことがわかります。それを牽引したのは「大日本帝国」にノスタルジーをいだく自民党の政治家たち、中でも教育勅語の実質的復権を目論む安倍晋三氏であったと私は思います。

 しかし、こうした時代錯誤の連中の思惑はさておいて、「公共」の学習内容はなかなか面白そうなのです。概要は以下の通りです。

 A 公共の扉

 (1)公共的な空間を作る私たち

 (2)公共的な空間における人間としての在り方生き方

 (3)公共的な空間における基本的原理

 B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち

 C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち

 A「公共の扉」では、個人の尊厳と自主・自立、幸福、正義、公正、権利と義務、法の支配、民主主義などの概念を学ぶことになっており、ベンサム、J.S.ミル、カント、フロム、ロールズ、ホッブズ、ロック、アリストテレスなどが出てくるようです。

 Bでは政治参加、世論の形成、消費者の権利と役割、国家主権と領土、安全保障と防衛、国際社会における日本の役割、職業選択、雇用、市場経済の機能と限界、グローバル化と相互依存の深まりなどを学習。

 Cは「公共」全体のまとめと位置付けられ、A、Bを踏まえて生徒自身が課題を見つけ、調べ、討議し、自身の考えを論述する(レポート作成、クラスでのプレゼンテーションなど)時間とされています。

 たとえばこの十年、慰安婦や領土問題に関して教科書の記述はずいぶん変わってきたことでしょうし、基礎的な知識の刷り込みは生徒の思考を左右すると思います。その一方、授業は生徒の考える力をはぐくむ場でもありますから、そうした目で「公共」の教科内容を眺めると、来年度の導入以降、各地の高校の教室で政治家の目論見を軽々とこえるシーンが出現することもあるのではないかと私は想像します。この問題は継続してみていきたいと思います。





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