~なに、もう消せません、正しいことと思えませんだと? おまえはどこの生徒会長だ、いい加減にしろ。消すためにわざわざ鉛筆書きさせてるんだ。やつらはエッセンシャルワーカー、県民相手に揉み手して定年むかえりゃいいんだ。俺たちはかじ取り役、公務員もピンキリだあ。おまえは何のために東大出てここにいるんだ、しっかりしろい。
改めて言っておくからよく聞けよ。統計は数値じゃないトレンドだ。コロナとおんなじ増えたか減ったかだ。せっかく続けてきた手法を今さら変えてどうする。過去のデータも未来のデータもパーだ。それこそ地方の連中に済まない話だ。元々これは悉皆じゃないサンプル調査だ、知ってるだろう。どうせ係数をかけて全体を占うんだからそもそも作り物だ。調査票の補正ごときでギャアギャアさわぐんじゃない。
次はマインドだ。景気がよいと思うと財布のヒモがゆるむ。するとほんとに景気がよくなる。株も一緒よ。ならば官需も民需も増えている、GNPも増えていると思った方がいいだろう。データが景気をなぞるんじゃない、データが景気を引っ張るんだ。正確に越したことはないがおまえもちっとは頭を上げて統計の究極の目的を見ろ。それはつまるところ国民の福利厚生だ、違うか。俺たちはその仕掛け人、水増し上等じゃないか。
3つ目はパワー、これが一番大事だぞ。いま首相がアベノミクスのラッパを吹いてる。首相が変わったって第一番は飯のタネ、経済だ。これを応援するのがおまえの仕事だ。法律ごときにビクビクするない。佐川さんを見ろ、あんな肝のすわった人もない。主君を守るため弁慶のように総身に矢をあびたがどうだ、十分に報われよな。それにひきかえ文科省をやめた前川はどうだ、正義の代償は高いぞお。佐川、前川、どっちの川の水が甘いか分かるだろう。検査院は気にするな。彼らも仕事、こっちも仕事。プロレスみたいに筋書きのあるドラマなんだ。大親分は首相ひとりだから心配はない。万万が一処分を食らっても訓告、悪くてちょいと減給か。どっちにせよ若いおまえはお咎めなしよ。心配するな男だろ。
どうだ少し目が覚めたか。ときに最近こどもが生まれたそうじゃないか。おまえの人生はまだまだ長いぞ。広い道の真ん中をみんなと一緒に歩け。妙なことを考えるな。そして今日は早く帰って子どもの寝顔をサカナに酒でも飲め。職場の和がないとそれもしにくいだろ。俺たちは仲間だ。いいな。今日のことはもう忘れろ。そうか分かった。はい、お疲れ。~
いやひどい上司もあったものです。これは、国交省統計調査室長のデスクにマイクをしかけておいたらこんな声が拾えたかも、という私の想像であり、生徒会長さん、前川喜平氏、県職員の方々への失礼をお詫びしなければなりません。しかしこれは絵空事ではありません。「建設工事受注動態統計」は2000年に開始され、国交省は当初から一貫して、営々と、たゆむことなく不正を行ってきました。これは「統計の不正」ではなく「不正統計」です。その主な問題点は以下の通りであると考えます。
一つ目は、国交省が、締め切りに間に合わなかった業者の受注実績が「実際よりも過大となるように」調査票を書き換え、長年それを継続してきたということ。調査票の回収が締め切りに間に合わないのはあり得ることで、正確な数値を把握してから遡及訂正を行うのが普通です。ところが国交省は、報告が遅れた業者が数か月分の受注実績をまとめて提出した場合、これを「最新1か月分」の受注実績として合算していました。明らかに意図的な水増しです。もし数値が「下振れ」するケースなら、彼らはこんなことは決してしません。
二つ目は、2013年から「二重計上」を始めたこと。不正の拡大再生産です。
この年から調査票未提出の業者について推計値を計上するようになり、同時に「伝統的な」書き変えも継続したため、当然、ダブルカウントになりました。検証委員会は組織内の情報共有の不足を指摘しましたが、それは有能な彼らに対して失礼です。私は、技術的なミスに見せかけて意図的な数値の水増しが行われたと考えており、その額は年間4兆円を大幅に超えると報じられています(朝日新聞が公表データに基づき2020年度の過大額を4兆円と試算。これは二重統計のデータ量を大幅に減らした年の数値。それ以前の過大額はさらに多いはずだが調査票は廃棄済み)。当時は第2次安倍内閣の2年目でアベノミクスの真っ盛りであったことも押さえておく必要があると思います。
三つ目は、2020年、会計検査院の指摘により都道府県に書き換えの中止を指示する一方、国交省は書き換え合算額を「全月分」から「2か月分」に減らしつつ秘かに書き変え不正を続けていたこと。組織あげての隠ぺい工作であり不正の矮小化です。これを知って斎藤鉄夫国交省が「言語道断だ」と怒って見せたようですが白々しい話です。お芝居が下手なのか考える力の不足なのか私は知りませんが。
以上三点はワンセットです。国交省は統計という事実のみに基づくべきものを政権に都合のよい方向にあえて歪めて提示し、これまで20年にわたり国民を欺いてきました。国交省と一括りに言いますが、もちろん多くの部署があり、大勢の職員のうちには辞めた人、新たに加わった人も沢山いるでしょう。しかし一つの役所としての風土、人から人へ伝達される気風があります。省庁のホメオスタシス(生物恒常性)といってよいかも知れません。今回の「不正統計」はその深部に根を下ろしていると私は思います。これに比べればGDPへの影響など軽い問題です。
今回の件で問われるべきは「公務とは何か」、「公務員とは何か」です。ひょっとすると「本省」の職員は、自分を国民の指導者であると勘違いしているのではないか。まずは、国交省の当事者すべてに反省文を書かせ公表していただきたい。それを踏まえないと改善策にたどりつけません。「減給3か月」など4か月目から忘却のかなたです。
彼らと違い、地方公務員は現場に身を置いています。時にしんどくても、これが「公務員とは何か」を自問する契機となり得ます。私は、冒頭の国家公務員の頭をバシン!と叩き、地方公務員の方々の肩をポンポンと叩きたい気持ちです。
最後に「黒幕」のこと。歴代の中で特に安倍政権は「公」を「私」にすげかえるという点において最も悪質、低劣であったと思います。その強大な力が本省役人の公務の規律を緩め官邸になびかせました。何度も書いてきたモリ・カケ・サクラばかりでなく、この不正統計も同根です。国会ではこの点を追及してほしいところです。
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