2023/08/15

212)戦う老人

  自民党副総裁の麻生氏が台湾に出かけ、「戦う覚悟が必要だ」とぶち上げました。中国が攻めてきたら台湾政府と人民は迷わず武器をとれ、日本も他人事ではないから参戦する、米国が駆けつけてくれるから心配はいらない、民主主義陣営の本気度を示すことが大事だ、と言いたいのでしょう。戦う老人・麻生太郎82才。パナマ帽の下は日の丸のハチマキです。好きな散弾銃を持たせたら、贅沢三昧の身体に自らムチをいれ「捧げ銃」で行進を始めること間違いありません。

 1940年生まれの麻生氏は戦後民主教育のいわば第1期生ですが、平和の大切さを説く先生の話をちゃんと聞いたのでしょうか。彼より少し年上のジャズ・サックス奏者渡辺貞夫さんは、「当たり前のことなど何ひとつなくて、僕たちが手にしている平和が、どれほど貴重なものかとありがたく思います」と語っています(朝日新聞8月13日「折々のことば」鷲田清一より引用)。二人のこの落差。政治家と音楽家の違いだけではないはずです。

 麻生氏は、軍備を増強し戦う覚悟をもつことが今日の世界情勢における平和への道だという意見です。1年前のペロシ米下院議長の訪台にも刺激されたでしょう(俺も一発かましにいくか)。「積極的平和主義」や「敵基地攻撃能力の保持」が昨今の政権の方針ですから岸田首相もニコニコと送り出したはずです。
 麻生発言に対し、中国外務省は日本が台湾を植民地支配した過去をあげ「最もなすべきことはわが身をかえりみて言行を慎むことだ」と指摘しました。これは正論です。台湾や香港を力で従わせようとする中国も自省の必要がありますけれど。

 かつて元が攻めてきた九州から南にむけ、沖縄、台湾、フィリピン(いずれも先の大戦で軍靴に踏みにじられた地)にいたるラインは中国艦隊の太平洋進出を多少なりとも抑止する役割が期待されており、麻生氏の訪問には砦どうしの連帯確認の意味もあったでしょう。政府は膨大な情報(多くは非公開)をもち、専門家がそれらを客観的に分析して外交・防衛政策を練り上げているはずですから、私ごときの感想は素人の世迷言に過ぎないと重々承知をしていますが、それでも素朴な疑問が消えません。

 政権の主張するとおり「リアルで大きな軍事力」を持つことが相手国の「攻撃の抑止」に本当につながるのでしょうか。言い方を変えると「開戦の意志決定」は、「自国の勝利を間違いなく保証する冷静かつ客観的な情勢分析」に基づいて行われているのかどうか。すなわち「勝てると分かっているから喧嘩をするのか」。
 それは違うと歴史が教えています。他ならぬ日本が行った真珠湾攻撃がそうではありませんか。当時は大東亜共栄圏を守るという大義名分がありました。すべての戦争は正義の名のもとに行われます。麻生忘れたか。(これは米国の銃規制にもつながる問題だと思います)

 事情は少し異なるもののウクライナ侵攻も同様です。ロシア(プーチン)は完全に読み誤りました。これはもちろん「必勝を期せ」と主張するのではなく「戦争は理性的に始められるものではない」という事情を示しています。したがって理性的な判断が行われることに依拠する「軍備の抑止力」はアテにできません。何より忘れてはならない重要なことは「勝つ」にしても「負ける」にしても命を落とすのは多数の無辜の国民です。

 私が足しげく通う桐生の田んぼに、ずっと昔から大きな「反戦老人クラブ」による「反戦看板」が立てられています。何年かに一度くらいのペースで文言は変わりますが「戦争反対」の主張は一貫しています。私たちは桐生に行くたびにその看板を眺めるのを楽しみにしていました。最新の看板は「戦争したがる政府はいらない!原発=環境破壊、今すぐやめよう」と訴えています。かつて「反戦老人クラブ」とあった下のスペースには「子ども教科書 市民・保護者の会」とありました。

 この看板を記憶の限り20年以上前から好意と共感をもって眺めてきました。「反戦老人」もその目的のために「戦う老人」ですが(私も列に加わらなければなりません)、今は世代交代したのでしょうか。或いはその過程で教科書を考える人々にもウィングを広げたのでしょうか。いずれにせよ麻生氏や岸田氏にもこの看板を見て欲しいと思います。税金と時間を使って海外に行くより意義があります。そのついでに足を伸ばしてオランダ堰堤を見学しましょう。明治の「お雇い外国人」デ・レーケが自然石で作った現役の砂防ダムです。

 ちなみに渡辺貞夫は私たちが好きであったサックス奏者です。その昔、すでにアメリカで活躍していた秋吉敏子に「リリカルな音を出す若手がいると」評されたこと、バークレー音楽院から戻って新宿ピットインで伝説的な演奏をしたことなど、彼にまつわるエピソードを覚えています。今はなき大津の西武ホールのコンサートにも行きました。
 また、議会視察に随行して彼の出身地である宇都宮市に行った際には、市役所のトイレに入ると彼の代表曲である「カリフォルニアシャワー」のメロディーが流れてきたことが忘れられません。

 今回は開高健の愛したバーのこと、彼が「アパッチ族」の首領として小説に描いた金時鐘さんのことなどを書きたかったのですが、いったん区切って今日この日にアップします。先ほど終戦記念式典のニュースを見ましたが、岸田首相はじめ政治家のスピーチは揃ってお粗末です。そもそも、伝えようとする心の中のダムの水位が低いのだと思わざるを得ません。







0 件のコメント :

コメントを投稿

1月9日をもってコメント受付をすべて終了しました。貴重なご意見をお寄せ下さったことに心からお礼申し上げます。皆さまどうも有難うございました!なお下の(注)はシステム上の表示であり例外はございません。

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。