2024/08/04

243)オリンピック

 宇宙に知的存在があって地球を眺めたなら、地表にハビコっている人類がさぞ不可解に見えることでしょう。異なる種を亡ぼしたり保護したり、同種内で殺しあったり助けあったり、エネルギー蕩尽のカラ騒ぎを繰り返しながら、全体では自分たちの生存環境の悪化を着実に進めつつある「不合理な生物集団」というわけです。異常気象や戦争のかたわら開かれたオリンピックについて書きますが高所からの意見ではなくささやかな不満です。

 私はかつてカール・ゴッチに心酔するプロレス少年であったし(布団の上でスープレックスを練習して首をねんざ)、その後テニス、サッカー、ラグビー観戦などを経て今は筋金入りの大相撲老人です。中年の頃はマラソンに飽き足らず70キロや100キロレースにも出ました。このとおり私はスポーツをするのも観るのも好きなのですがオリンピックだけは話が違います。この国別対抗戦が社会にもたらす「にわか愛国ムード」が気持ち悪いのです。

 先棒をかつぐのは例によってマスコミで、この時ばかりは偏向報道、感情移入、依怙贔屓、ほめ殺し、浪花節、涙の秘話、肉親情報など何でも許される(むしろ好感をもって迎え入れられる)と彼らは知っていますからアクセル全開です。この身も蓋もない演出と計算まじりの無邪気さが頂けません。先の戦争で「敗退」を「転戦」と報道したのは国家統制だったでしょうが今は主体的な確信犯です。彼らが好きな「サムライ」や「なでしこ」の言葉もセンスに欠けます。

 一方で日本の観客が日本選手を応援するのは自然だし、日本選手のパフォーマンスに一喜一憂するのも人情ですが、それにしても、頭髪にさす赤丸の小旗、手にかざす赤丸の扇、顔のペイント、殿様ちょんまげ(?)の被り物、息の合った手拍子、「ニッポン」の絶叫・連呼などは余りに過剰に思えます。もっともそれが選手の励みになっているようだし、他国も同様ですから私が文句をいうのは余計なお世話かも知れませんけれど。

 マスコミや観客の応援は、「同胞たる選手への共感」と「自国への愛着」の表現である、すなわち愛国心の発露であるとみんな言うでしょうが、私の「愛国」はもっと日常的なものです。すなわちゴミを捨てない、信号を守る、あおり運転をしない、道や席をゆずる、家族と友人を大切にする、投票する、原発について事実に即して考える、憲法を守るといった地味な事柄です。それはオリンピックと無縁です。

 ではオリンピックの応援は悪いのかと色をなして問われると、いえ祝祭に水をさす気はありません、言葉が足りませんでしたと私は気弱く謝ってしまいそうです。これは「取扱い注意」の話題ですが、熱狂はホドホドがよいと思うのです。とくに選手や関係者への賞賛と脅迫が並んでヒートアップするSNSの模様をみるとその感を深くします。これと関係してメダル競争にも疑問があります。

 子どもの幸福(よい学校を出てよい会社に入ること)は、親の経済力と愛情(子どもの運しだい)であることを「親ガチャ」と言うそうです。親にも子にも辛い言葉ですが、この伝で行くとオリンピックのメダルは「国ガチャ」であり、これは過去の国別メダル獲得数をみれば一目瞭然です。たとえばアンゴラ、コンゴ、ドミニカ、マダガスカル、バングラデシュ、パラオ、バヌアツなどの失礼ながら経済的に余り豊かでない国は出場しても表彰台に立ったことがありません。

 阿部兄妹だって「わたがしペア」だって、毎日数時間をかけて水汲みにいったり赤ちゃんや山羊の世話に追われていたらメダルを取れたはずがありません。まして現代の選手強化は金に糸目をつけず科学的知見を総動員して国家的プロジェクトとして行われます。ゆえにメダルが国力の威信となりますが、これも白ける話です。私は、とくに団体競技の場合、選手の練習環境があきらかに厳しい国を日本より応援したくなります。

 日本の選手たちは多くのものを犠牲にし人生をかけて挑んでいるだろうし、その陰に出場できなかった多くの選手がいるわけですから、そのことも忘れるわけにいきません。私は冷房のきいた部屋でテレビをみて好きなことを言っていますが、オリンピックはいつも但し書きつきです。この熱狂は日本が勝つこと、すなわち他国を打ち負かすことによって煽られます。まるで武器を持たない戦争に私たち国民が自発的に動員されているような気がするのです。

 最後に小咄をひとつ。
 大谷翔平選手が、調子のいい時はボールが止まって見えると言ったら、松山英樹選手が、それはスゴい、でもオレなんかいつでもそうだよ!と話したとか。おそまつでした。






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