2024/08/16

245)一日市長はアリですか?

 この表題はもちろん反語で「一日市長」などアリエマセン。さる8月2日、炎上商法の石丸伸二氏が彦根市の一日市長に就任しました。先の都知事選において彦根市長の和田裕行氏が石丸氏を応援したことがきっかけだそうです。話題になるなら何でもやってのけるご両人とお見受けしました。ささいなことに目くじらをたてるな、これはシャレだ、笑って見ておけ等と仰るなかれ、実は「公」という樽の中の一個の腐ったリンゴかもしれません。

 「大津通信」という名のブログながら公共に関する考察が本来の趣旨(はるかな目標)ですから、いつぞやの東近江市長の発言(フリースクール暴論)と同じく、今回の彦根市長の行動にも言及しないわけにいきません。と言っても過去の彦根市長であった井伊氏、獅山氏、大久保氏らは何となく「人となり」が知れるのですが、3年前に就任した和田氏はあまり知りません。

 私は、以前からSNS上でよく見かける自己中心的でセンテンスの短い言葉が気になっており(遠慮なくいえば多くは不快)、大げさに言うとネット上で公私の区分が溶融しつつあるという危機感をもっています。SNSは本来的に「つぶやき」の共有・拡散サービスであり、私もブログやラインを使っていますからこれは言うのも空しい話ですけれど。ともかく今回、私は和田市長と石丸氏がネット上に発信している言葉を拾い読みしました。

 二人ともよく似ています。「愛する郷土のためにビジネスマンから市長になった」という経歴だけでなく、SNSを頼みの綱として社会に働きかけ一定の成功を収めている点が同じです。「恥を知れ」と議員を一喝する動画で名を上げた石丸氏は「悪名は無名にまさる」とうそぶき、石丸氏に市長のイスを貸した和田氏は「ユーチューブだけで市長になった男と言われている」と自己紹介しています。

 和田氏が石丸氏を城下町に招いた理由は「地元を盛り上げるため」であったそうです。私が想像するに和田氏は恐らく次のように考えたのでしょう。「石丸ちゃんは165万票とりよった、滋賀県は赤んぼ入れても140万人、これはえらいこっちゃ、ほんまにSNSで世直しが出来るど、これからも石丸を大事にせなあかん、そや一日市長かましたれ、何でも話題や、ネットにもばんばん流すでえ」

 和田・石丸氏と違って私はSNSが民主主義を劣化させる危険があると考えます。SNSのユーザーは和田氏が「オールドメディア」と呼ぶテレビや新聞を参照しません。どのメディアも手段に過ぎず、ことの真偽は私たち受け手側が判断しなければならない点では何を情報源としようが大差ないでしょう。でもこれまでも述べたようにネットは「私」をとめどなく肥大化させるツールでもあります。五輪選手に賞賛とバッシングの嵐が交互に吹き荒れたことや、石丸氏のやり玉にあがった安芸高田市の議員が殺害予告を受けたことはほんの一例です。

 自分と異なる価値観を認めることと対話することは、ともに難しいけれど社会という寄りあい所帯で共存していく合理的な手段であり、民主主義の基本的態度です。ところがSNSは政治参加への道を広げる一方でこうした民主主義マインドを蝕んでいます。これを問題と考えないどころか相手を打ち負かす格好の武器として使用しているのが石丸氏であり、それに倣おうとしているのが和田氏であるというのが私の意見です。

 彦根には陸上の桐生祥秀選手や水泳の大橋悠依選手などのスーパースターがいます。もし仮に一日市長なるイベントをやりたいなら彼らの方がふさわしいし、何より印象が爽やかです。あるいは夏休みの高校生の中から希望者をつのってもよい。彦根市の新採職員から選ぶのもありかも。石丸一日市長より百倍は良いはずです。

 しかしそもそも論から言えば、選挙で選ばれた市長という職名を市民の承諾なしに勝手に他人に貸すことは、たとえ一日の儀礼的イベントであっても適切ではありません。しかも和田市長はそれを自分の売名のために行ったと私は見ています。本人にその気がなくてもこれは公私混同です。ビジネスの論理に基づく「改革」を叫ぶ新自由主義的ポピュリスト市長(大津にもいました)がよく犯す過ちです。

 ちなみに石丸氏は本を出しています。議論術、思考、政治観を語った一冊だそうで、その名も「吾往かん」。お前は青年将校の亡霊か、お盆は済んだぞと私は心の中で言いました。恥を知れとはお前のことだと付け足しました。いやまったく、海ゆかば水づくカバネ、という軍歌が聞こえそうです。あるいはナメクジが100匹ほど這いまわっているバスタブに入ったような気持ちと言いましょうか(もちろん裸で)。

 書名はまことに雄弁です。この書名だけでも石丸氏が自分にうっとりするタイプ(臆面ない自己陶酔の人・自省のない人)であることがよく分かります。それは石丸氏の勝手だけれど、この言葉がネット上で受けると彼が判断したことが気がかりです。その判断だけは正確でしょう。こうした安手の言葉が共感を呼ぶ空間は平板でとても危なっかしいと思います。

 最後に、彦根はとてもよい町で私は好きです。何でもありの大津(これを言い出すと長くなる)と違って個性がキラリと光る城下町です。なんといっても彦根藩35万石は近江の顔、明治初期においても彦根が県内最大の町でした。県域南端の大津町に県庁が置かれなければ彦根が県庁所在地になったでしょう。明治と昭和に2回にわたり県庁移転運動もありました(1回目の時は県会がもめて内務大臣が裁定に入ったとか)。いまはひこにゃんが大活躍しています。ひこにゃんなら「1年市長」でも構いません。




 

 



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