2024/11/22

256)地球4大事件

 もし火星人が根気よく地球の観察日記をつけていたら人類史上の大事件として少なくとも次の4つを特記していることでしょう。以下、記載順に ① イエスと聖書の出現、② 核エネルギーの発見、③ 宇宙船の製作、④ コンピュータネットワークの創出です。何といっても火星人ですから善悪を超越して物事の大きさ(絶対値)だけを見ています。

 ① は長くなるので後に回して、② は、これ以上分割できない最小物質であると長く信じられて来た原子核を分裂させて桁外れの威力をもつ爆弾を製造し、それを同族の大量殺戮に適用したことと併せ、プルトニウムに代表される副産物の猛毒元素を貯めこんで人類滅亡のリスクをぐんと高めた点で大事件にランクインです。

 ③ の宇宙船は、いうまでもなく地球人が生息圏の外に出て活動する第一歩となる画期的な出来事です(その先に何歩まで進めるかは別にして)。「これで我らも真の宇宙人になった」と地球人が言い出したら多少は認めてやらざるを得ない、と火星人は思っているでしょう。

 ④ の「人工知能とその世界的ネットワークの創出」は、人類史の段階を一つ押し上げました。人類の知的進歩は文字の発明や印刷技術の開発によって加速したけれどAIの時代になって光速の進みようです。知のネットワークは空間的(ヨコ)に広がり、過去から未来へと時間的(タテ)にも広がっています。過去の一人の知識が人類の共有財産としてプールされ、それを利用した人が新しく獲得した知見をプールに戻す。この連鎖により知のネットワークは無限の拡大を続けています。

 ところで百年ほども昔、「ヌースフィア(精神圏)」という概念を提示して早々と地球規模の知的ネットワークの到来を予言した人物がいます。その名はテイヤール・ド・シャルダン(1881~1955)。カトリック司祭、宗教思想家、古生物学者、地質学者という難しい4足のわらじをはいた彼は北京原人の発掘調査で名をはせ、一方でアダムとイブの物語を否定してローマ教皇庁から異端者の烙印を押されました(生前は著書も出版禁止)。

 ~ ヒトの脳の容積は、アウストラピテクスの500cc、ホモエレクトスの900cc、ホモサピエンスの1300ccと200万年の間に飛躍的に増えて精神活動が質的転換(意識の爆発)をとげ、個体の進化だけでなく社会の進化が始まった。そして現代社会は全地球的に広がった相互依存的な知的活動のネットワークに包まれて存在し、その中で個人個人も生きている。~
 これが「精神圏」ですが、その先にシャルダンが見ていたものは、避けがたい地球の死と宇宙の終わりであって、そこで彼は神の存在を語っています(シャルダンについては立花隆著「サピエンスの未来」・講談社現代新書を参考にしました)。

 ここで① の「キリスト教」に戻ります。「仏陀と仏教」は人類の資産の一つに数えられる存在ですが、先に述べたとおりインパクト重視の火星人は「イエスと聖書」に軍配をあげるはずです。インドの王家に生まれた仏陀は45年間にわたり教化活動を行い80才で大往生しました。ユダヤの大工(石工とも)の子として生まれたイエスは、1年から3年ほど活動したのち30才余りで磔刑に処せられました。まことに対照的な人生です。

 仏陀は2500年前、イエスは2000年前に生き、歩き、話していた生身の人間(ホモ・サピエンスの一員)です。前者はインド人、後者はユダヤ人、いずれも傑出していたにせよ生前において仏でも神でもない只の人間でした。あれこれ本を読み、私は今頃になって「やっぱりそうだったか」と納得しています。とにかく古い話ですからその道の専門家らが現存する記録を残らず照合・分析し、論争も重ねて「これは間違いない」と大多数が一致したところが史実とされるようです。

 イエスについては、紀元1世紀のローマの歴史家タキトゥスが著した「年代記」に「ユダヤ総督ポンペオ・ピラトにより処刑されたキリスト」という記述があり、またユダヤの歴史家ヨセフスの「古代史」に「キリストと呼ばれたイエスの兄弟ヤコブ」への言及があり、さらにユダヤ経典「バビロニア・タルムード」に「イエスは過越の祭りの時に十字架にかけられた」と記されていて、これらが古くて客観的な記録とされています。

 また紀元1~2世紀にギリシア語で書かれた「新約聖書」は、イエスの弟子たち(マルコ、マタイ、ルカ、ヨハネ、パウロなど)が、イエスにより成就した神と人間との出会いについて語った文書(福音書、使徒言行録、手紙など27巻)であり、主にイエスの言動を描いています。為にする書物だから話半分だろうと考える人がいるかも知れませんが、これもイエス実在の「証拠」です。実際に聖書を読んでみると、対象となる人物(イエス)が確かに存在していなければとても表し得ない具体性と迫真性を備えていることが分かります。

 研究者は、イエスの言葉が古代パレスチナの風土と生活に深く根ざしていることを指摘します。例えば岩だらけの土地、肥沃な土地、ぶどう園、ワイン搾り機、塔、石のフェンス、オリーブの木、雀、羊、羊飼い、魚、漁師、荒れ狂う海等々。さらには網、ボート、剣、房飾りの衣服、外套、ベッド、わらぶき屋根などの事物。これらの事物のほとんどが発掘調査により確認されていることをジェイムス・チャールズワース(プリンストン神学校聖書学教授)が著書「史的イエス」に書いています。 

 ちなみに「旧約聖書」はイエスが出現する前、すなわちキリスト教が成立するよりずっと前に、神がモーセを通してイスラエル民族と交わした契約(キリスト教徒から見ると「旧約」)に基づいて著されたユダヤ教の唯一の聖書です。イエスをキリスト(メシア)と認めていないユダヤ教徒にとっては「旧約聖書」のみが「聖書」です。一方、キリスト教は「旧約」と「新約」の2つを合わせて「聖書」としています。両宗教とも神は「ヤハウェ」です(この唯一神については改めて考えたいと思います)。

 さて世の中には、「イエスが存在したことは間違いないとしても、彼が死者を蘇らせたとか、自身が処刑三日目に復活したという話まではとても信じられない」という人が多いかも知れません。現代の科学的知性からは認めがたいというわけです。一方でクリスチャンの科学者も少なくないし、無神論者の科学者が科学を追求した果てにキリスト教に「転向」した例も複数あります。イエスの磔刑と復活のテーマはキリスト教の根本に関わってとても重要です。

 ところが火星人はこれを重要視しません。彼らは単に「イエスと聖書」が2000年にわたって人類にきわめて大きな影響(隕石衝突級のショック)を与え続け、いまも地球人の3割がキリスト教徒であるという事実を見ています。異星人の眼は、キリスト教の諸相、すなわち磔刑と復活、使徒の布教、殉教者の数々、異端審問、十字軍、宗教戦争、魔女狩り、隠れキリシタン、自己犠牲、聖人列伝、公会議、宗教芸術、民衆の祈り、隣愛・愛神の心などの一切合切をひっくるめて概観しています。私の見方も火星人寄りです。

 今回もつたない宗教談義となりました。前回の「宗教について」の続編です。付け焼刃の知識、粗雑な書き方はご覧のとおりで、信仰を持たれる方のご気分を害したならお許し下さい。でも私はキリスト教に少し惹かれています(この点が火星人と違います)。

 何かの拍子でこの記事を読んだ人が「やっぱ火星人いたんやなー」とつぶやいたら、「知らなかった? 火星人ジョーシキ」、「北朝鮮にロケット技術を教えてるらしい」、「火星語の翻訳は簡単。AI連結で15分もかからん」、「トランプがUFO情報を解禁したら火星人の顔も分かるぞ」、「彼らはマジ3頭身ですw」などと書き込む人たちが現れそうです。やがて「マース教」が生まれるかも知れません。





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