最近の新聞で知った大津市の施策について書きます。これまで申し上げてきたとおり私は大津市役所の応援団であり、職員の皆さんが喜びと遣り甲斐をもって市民のためによい仕事をされるよう祈っています。しかしこれは私が心の中で勝手に思っているだけで、退職後は市役所に出向いたことがなく職員の方々とも職務上の交流は一切ありません。したがってこの記事は外部から眺めた一つの感想にすぎません。
ついでながら、退職後も古巣に足しげく出入りして先輩風を吹かす老人は百害あって一利なしです(電通の高橋某のように)。「事業の進歩発展に最も害するものは青年の過失ではなくして老人の跋扈である」という伊庭貞剛の言葉を前に引きました(記事138「住友活機園」)。これは個人の出処進退についての戒めですが、組織上層の人々にとっても自らを律する言葉になるものであると思います。近ごろ大企業の社長の勇退が続きました。政界もこれにならってほしいものです。
さあ! 大津市はついに庁舎建て替えに着手しました。昨年12月、庁舎整備基本構想を公表し、広く意見を聞きながら来年度中に基本計画を作る予定であるとの報道を見て、私は「あ~よかったあ!」と思いました。これは時の市長にとっても「のるかそるか」の大事業です。前市長の「無責任先送り」の後始末に正面から向き合われた佐藤市長のご決断に敬意を表します。もちろん副市長以下の意見に耳を傾け、市民のために判断された結果でしょう。
大津市庁舎本館は、1967年(昭和47)、堅田町・瀬田町との合併を機に建設され、その4年後に別館が建てられました。この二つの建物の何が一体問題なのか。それは、建物の壊れやすさ(脆弱性)です。2004年の耐震診断の結果、大規模地震(震度6強~7程度)への耐性(IS値)が、要求水準の「0.9」に対して本館がわずか「0.1~0.35」、別館が「0.11~0.68」に過ぎないと判明しました(数字に幅があるのは階層と方向によって耐震強度が異なるため)。
これは恐ろしいほど低い数値であり、建設現場の仮設プレハブ事務所の方が数倍は安全です。こんな危なっかしい庁舎に職員が毎日出勤し、数多くの市民・事業者が来庁されます。大津市役所が今日も無事に業務を終了することができたのは、「今日も大きな揺れがなかった」という有難き偶然によるものです。「公の器」はもっと確かな安全を求めなければなりません。このことに関し2つ指摘します。
まず、新築して「わずか37年後」の調査の結果、耐震性能が極端に低かったという残念な事実です。最大の原因は、各階の床や屋根を支える「梁」(水平方向)と「柱」(鉛直報告)の結合力が弱い(「点」でしか繋がっていない)ことにあり、通し梁と円柱を際立たせる「見てくれ優先」の設計思想の帰結です。佐藤武夫氏が設計したこの建物は「モダンムーブメントの建築197選」に選ばれ解体を惜しむ声もありますが、そういう人々にはここに住んで頂きたいと思います。建物の第一の使命は、中の人や物を守ること以外にありません。庁舎を残すなら安全軽視の「負の遺産」として継承すべきでしょう。
「阪神淡路」や「東北太平洋沖」の大地震を経験していない37年前の建築だからやむを得ない面もある、と言えるでしょうか。たとえば84年前に建てられた滋賀県庁本館(1939年建設)は、大津市庁舎よりずっと堅固な構造で素人目にも安心感を与えます。県はIs値を公表しておらず詳細は不明ですが、私が以前に関係者から聞いた話では耐震性能は大津市よりずっと高く、中には「0.9」を上回る箇所もあったと記憶しています。築後56年の大津市庁舎よりずっと古い建物であるにもかかわらず、当面は耐震改修を重ねて「使い回せる」レベルにあります。
また、高い石段の上にそびえ立つ大津市庁舎の外観は「ようこそおこしやす」という印象から程遠く「公器」にふさわしくありません(中ではよい職員がお待ちしているのに)。いくら敷地の高低差が大きくても、もっと工夫のしようがあったろうと思います。エントランスばかりでなく建物内部も著しい「バリアアリー」構造です。設計思想の古さを痛感します。
市は、当然の順序としてまず耐震改修による延命策を検討しましたが、もともとの躯体が弱いため建物中がブレース(筋交い)だらけになってスペースを狭め、それも一時しのぎに過ぎないと判明しました。配管、エレベータ、空調等設備の老朽化も深刻です。つい悪口ばかり並べましたが、これらの事実はすべて移転新築の必要性を裏書きしており、今回の市の方針決定はきわめて妥当であると思います。移転先にまで意見を述べる気はありません。一日も早い新庁舎の完成をお祈りいたします。
二つ目です。
移転新築は妥当ですが、実は「財源確保」という面から遅きに失しています。なにせ大きな買い物ですからローンを組む必要があり、有利な財源も探さなければなりません。また公共施設は他にも多数あり、民間住宅の耐震化の促進・支援も重要な課題です。そこで目片市長の時代にこれらを進めつつ「庁舎整備基金」の積み立てを始めました。小中学校や幼稚園等の耐震化も一段落して、これからいよいよ庁舎という時に市長のイスに座ったのが越直美氏です。Oh my god !
この人物に言及することは不快ですが、ここは避けて通れないので簡単にひとこと。当時、庁舎整備のきわめて有利な財源として「合併特例債」がありました。ただし2021年度内の建物完成が要件とされており、市はこれに合わせて計画的に準備を進めていました。詳細は記事65(まちづくりの課題・庁舎整備)をご覧いただきたいのですが、越氏があえてこの好機をスルーしたため、市の将来の経費負担は大幅に増加することとなりました。
「合併特例債」を活用しない理由について越氏は、大津市には有利かも知れないが国にとっては出費となると私に説明しました。確かにそれは国の負担(国民の負担)になりますが、大津市民も国税を払っています。そもそもこれは合併後のまちづくり支援を目的として制度化された起債(該当するすべての市町が利用できる起債)であり、大津市庁舎の建て替えが必須である以上、市長として特例債の見送りはありえません。事業費を180億円とするとそのうち128億円(7割余り)を国が負担してくれるという制度であり、棒に振ったのは何とも勿体ない話でした。
付言すると、特例債は、償還額の75%相当額を国が地方交付税に上乗せして負担する(市の返済を免除してくれる)仕組みであり国による「さじ加減の余地」があることや、当時、庁舎の移転候補地の一つが土砂災害区域に指定(突然に)されるなど考慮すべき事情はありましたが、庁舎整備が喫緊の課題で「あり続けている」ことも踏まえ、この一件は越氏の大きな「不作為の過失」であったと思います。「作為の過失」も山ほどありましたが今さら申しません。
つぎは「子育て支援の商品券」です。
大津市は1才から15才の子ども一人あたり5千円分の商品券を配布するとのこと、コロナ対策の地方創生交付金2億4千万余を活用するもので時宜にかなった施策だと思います。所得制限は設けないとしており(慎重に検討された結果でしょう)これも賛成です。お金持ちにも配ることになりますが、やはり給付と徴収を分けて考える方がいいと思います。本来は税制の改善(所得把握の徹底や富裕層・大企業の優遇見直し)により早期に本来的な解決が図られるべきです。
子どもへの支援はハートの部分も大切です。市場経済の飽和化やICTの際限のない進展は社会に大きな影響を与えていますが、全体的に見てプラスよりマイナス面の方が大きいと私に感じられます。加えて3年をこえるコロナ禍です。大人でも何かとつらい時代に、敏感で手厚いサポートを要する多くの子どもが、本人の自覚の有無に関わらず苦しみ悩んでいることは想像に難くありません。
昨年10月に発表された文科省の調査結果では、小中高生のいじめ認知件数と、そのうち重大事態件数・暴力行為件数は、いずれも前年比を大幅に上回っており、小中学生の不登校は過去最大を記録しました。大津市が公表している子育て相談件数も恐ろしい勢いで増えています。こうした状況は、私が以前に関わっていた発達障害の子ども支援の現場や、友人知人の話からも十分に推測することができます。子どもを「炭鉱のカナリア」にしてはならないと思います。
今回の「コロナ交付金」は感染拡大防止、地域経済回復、住民生活支援の3つが目標ですから商品券は妥当でしょう。その一方で大津市では(どこの都市でも)、「子ども自身および子育て中の親に対する相談支援体制」のさらなる充実は喫緊の課題です。それはつまるところ人材確保ですから花火のように一発打ち上げるだけで終りません。しかし、いまの子どものためにも明日の大津のためにも、ソフト面での子育て支援の充実が重要であると思います。
先輩風を吹かす老人はいったい誰だと叱られないよう申し上げますが、たまたま私の関心のある庁舎整備と子育て支援のニュースを続けて見たので感想を述べました。しかしこのブログは大津市の施策を取り上げて一々論評するものではありません(内心は本、音楽、散歩、お酒など私の昨今の必須アイテムについても書きたいくらいです)。今後とも社会との接点を見失わないよう細々と素人考えを綴っていきたいと思います。
というわけで今回の記事は外部から見た一般的感想であり、一部に昔話がまぎれ込むとご了解ください。「まず大津市庁舎整備基本構想」について。私がいまさら申し上げるまでもありませんが、大津市役所の建物(特に本館と別館)は
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