昨年10月に首相に就任して「働きまくる」と宣言した高市氏は、わずか3か月後に衆議院を解散、つづく総選挙では「これは総理大臣の信任投票である。どこの党首がその地位にふさわしいか選んでほしい」と訴えて自民党に大勝をもたらしました。こうした虚言と不実を結果的に容認した私たち国民が高市早苗という災厄を招きました。トランプと米国民の関係に似ています。民主主義の危機です。
私には、まるで高市氏が「国益をそこない国民の幸福と自由を制限すること」を自らの使命だと心得ているように見えますが、その例をあげる気にもなりません(すでに色々書きました)。しかし先日、高市氏が憲法前文の「諸国民の公正と信義を信頼して平和国家を目ざす」というくだりを「おめでたい一文である」と述べたことには腹が立ちました(そこまでアホとは知らなんだ)。
憲法草案がGHQにより英文で書かれたことは周知の事実ですが、それが第2次大戦直後に各国に広く共有されていたであろう平和への希求(戦争はもうこりごりという実感)を反映する内容であったこともまた事実でしょう。人は、戦争を始めとして奴隷制度、植民地支配から環境問題にいたるまで常に高すぎる代価を支払ってはその都度理念を掲げ直し、やっとのことで歴史を漸進させてきました。
これは理念によって現実を正そうとする営為ですが、高市氏は逆に、現実によって理念を正そうとしています。本人は賢いつもりであっても掛け値なしの愚か者です。一国の首相が冷笑主義を鼓吹してどうなるのでしょう。そもそも行政府の長をはじめとする公務員には憲法を尊重し擁護する義務があって(憲法99条)、高市氏は自ら率先してこれを行うべき立場です。
もちろん改憲論議は自由だし、自主憲法の制定を党是とする自民党が改憲を目ざすことも自由です。さらに、高市総裁が党大会で「時は来た」とぶち上げるのも勝手ですが、これは同党が衆議院で多数を占めただけのことであって、国民の間に改憲の論議は高まっていません。衆院憲法審査会の古屋会長が「議論はほぼ出尽くした」と言っているのもコップの中の話です。
自民党などの改憲主張の背景に「押しつけ憲法観」があるけれど、それほどインディペンデント・ジャパンが大事なら、自分たちのあまりに露骨な対米従属の姿勢を少しでも改めることが先でしょう(メンツを気にする前に基地の騒音ひとつでも軽減すべし)。ちなみに私は「押しつけ上等」だと思うし、押しつけられた洋服に身を合わせようと努めてきた80年は「さらに上等」だと考えています(近年は「押しつけ」の影に日本側の自主の動きに光をあてる研究もあります)。
自民党は、憲法9条に自衛隊の明記や「国防軍」の追記を主張し、この改正を行っても「必要最小限度の範囲内でのみ自衛権行使が容認される」という現行憲法上の制約は何も変わらないと説明していますが、もしそれが真実なら大変な政治的エネルギーを使って憲法を変える必要がそもそもありません。自衛隊には個別法があるし、隊員の「誇り」と「やる気」は自衛に徹することで担保されると考えるべきです。わが国はホルムズ海峡の艦船派遣回避で9条のお世話になったばかりではありませんか。
国内もそうですが特に海外(特にアジア諸国)から見ると、9条を変えることは「平和国家」の路線転換に他なりません。高市首相は太平洋のはるか向こうを気にするけれど、東シナ海のすぐ先への配慮が足りません。首相の中国に対する姿勢もまた、対米姿勢と別の意味でバランスを欠いています。台湾有事発言とあわせて考えると、間違いをあえて重ねて正当化をはかる心理(誤謬の訂正)におちいっているのかもしれません。
このあたりで終ります。最近は見るもの聞くものすべてが残念、無念、ヤバいことばかりで記事を書く気もなえます。そうこうするうちに山中の赤紫の妖精・ミツバツツジの季節も過ぎました。沖縄は梅雨入りしたとか。人事にかまわず季節を回していく大きな手の存在を感じます。
ところで憲法については前にも書きました。内田樹が言うとおり、私たちはいまだ憲法の内実を充填する時期にあると思います。
ついでながら、平野啓一郎が高市氏の「経歴詐称」を非難しています。高市氏は若い頃、見聞を広めるために米国の下院議員の事務所でコングレッショナルフェロー(Congressional Fellow)として働いたことがあり、これを「米連邦議会立法調査官」と和訳して自分の経歴としています。
私が平野氏と高市氏のどちらを信用するかは言うまでもないし、議員事務所のスタッフを「官」と呼ぶのは無理があります。といって高市氏が真っ赤なウソをついているわけでもありません。このあたりが同氏の狡猾なところで箔をつけるための際どい印象操作です。奈良の女は何でもやりまっせ。せっかく気分よく終わろうとして振り出しに戻ってしまいました。

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