資質と能力に欠ける息子を誰はばかることなく総理秘書官に取り立て、失態を重ねさせたあげくポンと放り捨てた岸田氏は、総理はおろか父親としても失格です。彼は自分に任命責任があると認め、一方で息子は苦い挫折を味わいましたが、これが彼らの「肥し」になるかどうか大いに疑問です。たいていの政治家たちの感覚(特に廉恥心)は、多数の国民と大きく異なりますから。
しかしこの件はまだ些事です。財源確保のめどが全くないのに「異次元」の少子化対策をぶち上げるのはもっと悪質で詐欺商法と変わりません。「歳出を削減する」と言いますが、防衛費以外は乾いたタオルのようにいくら絞っても水は出ないはず。社会保障費を削るのは弱い者いじめだし、国債をさらに増やすなら子どもの首をしめるのと同じです。国会での説明と議論を避け、空虚な言葉で煙幕をはる岸田政権も歴代同様に無責任です。
今日の少子化の主因は一世代前の出生数の減少ですから政府にとって「既定路線」であり、それに対し長らく有効な施策が行われなかったことは今に見るとおりです。岸田首相は支持率めあての言葉遊びをやめ、若い世代が安心して子どもを産み育てられる環境の整備に全力をあげるべきです。ちなみに「次世代の育成」は「今の世代」の重要な責務ではありますが、それが「自分の子どもを産み育てる」ことに限らないのは言うまでもありません。
さて、これらを上回る岸田政権の大罪は、なんと言っても「原発回帰」と「敵基地攻撃能力の獲得」の2つ(今のところ)でしょう。これらについては既に述べたとおりですが(記事182~186、202)、さる5月31日、老朽原発の延長を60年を超えて認める束ね法案(束ねること自体が悪質)が成立したことに少し触れます。自民、公明、維新、国民民主の各党は「脱炭素社会」と「電力安定供給」の字面の良さに惹かれて賛成に回りました。彼らは長期にわたる国民の利益を軽視する「今だけ族」です。
福島第一原発の事故後、従来40年間であった原発の運転期間を原子力規制委員会がOKすれば最長20年延長することが認められ「安全規制の柱」とされました。どこが安全かと私は思いますが、今回の法律変更により、60年の年限から「審査や点検で運転を止めていた期間を除いてよい」ことになりました。しかも運転停止の理由や期間が明示されていません。危険でずさんな基準です。電力会社は意図的に運転停止の状況をつくり出して管内の原発を計画的に1基ずつ「骨休め」させ、全体の収益を減らすことなく100年でも原発を延命させることが可能となります。
原発の炉心を覆う圧力容器は部厚い特殊鋼で出来ていますが、燃料の核分裂により発生する中性子にさらされて原子レベルの粗密がうまれ(中性子脆化)、やがて生じたクラックが常時かかっている強い引っ張り力に抗しきれずぱかっと割れる可能性があります(特に緊急注水の際など)。内部は高温・高圧・高汚染の熱湯で満たされていますから(およそ沸騰水型で280度・70気圧・300トン、加圧水型で320度・160気圧・350トン)、容器の破損は破局を意味します。
原発がそれに余裕をもって耐えるように設計、製造されていることは当然ですが「実稼働60年」の原発がいまだ存在しないので「論より証拠」がありません。そこで電力会社などは試験片への中性子の照射量を増やす代わりに照射年数を減らし(掛け算の答えは一緒)データとしていますがあくまで机上の計算であり、運転停止中の経年変化も正確につかめていません。そもそも世界でも60年を超える原発の審査の例はないと聞きます。
圧力容器は格納容器に収められ、さらに厚さ1メートルほどの鉄筋コンクリートの建屋に覆われていますが、この「多重防護」がいかに頼りないかを私たちは福島第一原発の事故で目の当たりにしました。原発は原子炉のほかに制御棒、タービン、発電機、復水器、給水管、ベント管等からなる複雑、巨大なプラントですが、運転期間の延長によりこれらすべてを健全な状態に維持することの困難さが大いに増します。
地震、津波、人為的なミス、事故、テロなどの危険ばかりでなく、核廃棄物の処理という未解決の問題が山積する原発ですが、これを長く使い回そうとするのは本当に危険だと思います。西村経産相は滋賀県で計画されている大規模風力発電事業に待ったをかけました。イヌワシやクマタカの生息地であるとの理由です。それはそれで結構ですが、人が故郷を追われ、国土が損なわれるのが原発です。野鳥も大切なら人間も大切でしょう。原発再生に舵を切りながら生態系の保全を唱えるのは大いなる矛盾です。
今回は円珍関係文書の記憶遺産選定というおめでたい話を書く予定でしたが、原発の延命法案が成立したのでひとこと言わずにいられませんでした。口直しに桐生の山すそに咲いていたあざみの写真を載せます。スコットランドの国花で花言葉は「愛国心」や「勇気」。岸田氏にしっかと握りしめてほしい花です。
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